森田真生「風景が育む情緒と学問」

近代西洋数学の始祖であるデカルトは、彼自身が整備した当時最先端の数学に、理性を正しく導くための「方法」の規範を見いだしました。とりわけ彼が重視したのが、記号を媒介にした代数的「計算」です。 一方、岡潔にとっては「計算」よりも遥かに重要な「方…

最相葉月『セラピスト』

セラピスト 最相 葉月 新潮社 ・第一章 少年と箱庭 河合がとくに慎重になったのは、ユングの「象徴理論」についてである。箱庭を作り続けていると、ある程度似通った図柄が現れる。たとえばマンダラ表現がその一つで、自分の中の相反する感情を統合した自己…

吉本隆明「シモーヌ・ヴェイユの神」

「シモーヌ・ヴェイユの神」 吉本隆明 (吉本隆明の183講演) http://www.1101.com/yoshimoto_voice/ どんな政府、どんな支配体制をつくったとしても要するに頭になるもの、あるいは頭脳を働かせて指標するもの、それから実際に肉体を行使して肉体労働する人と…

中沢新一『古代から来た未来人 折口信夫』

古代から来た未来人 折口信夫 (ちくまプリマー新書) 中沢 新一 筑摩書房 ・「古代人」の心を知る 折口信夫は人間の思考能力を、「別化性能」と「類化性能」のふたつに分けて考えている。ものごとの違いを見抜く能力が「別化性能」であり、一見するとまるで…

小熊英二『社会をかえるには』

社会を変えるには (講談社現代新書) 小熊 英二 講談社 2012-08-17 ・祝祭と音楽の世界 神の意志をこの世に現すには、聖なる世界と交信するには、どうしたらいいのでしょうか。 一つのやり方は、お祭りであり、「政治」です。その場合、「代表(リプリゼンタ…

中井久夫『世に棲む患者』

世に棲む患者 中井久夫コレクション 1巻 (全4巻) (ちくま学芸文庫) 中井 久夫 筑摩書房 2011-03-09 一般に「基地」を出て戻れないほど遠くに行かないほうが望ましい。たとえば、住み込み、寮なども、それが「基地」となりうるか否かを吟味せずに「とび込…

小此木啓吾『自己愛人間』

自己愛人間 (ちくま学芸文庫) 小此木 啓吾 筑摩書房 1992-09 ・プロローグ とりわけ現代社会は、私がモラトリアム人間社会とよぶように、自己中心志向が非常に肥大した社会です。お互いが共有する理想像(自我理想)によって、個々人の自己愛を社会化・歴史化…

隈研吾「モダニズムからヤンキーへ 新建築2013.5」

新建築 2013年 05月号 [雑誌] 新建築社 2013-05 ・漂うモダニズム 槇は、「モダニズム」は輝きを失ったと指摘し、水村は、「文学」は輝きを失ったと言う。20世紀前半に生まれた「モダニズム」と19世紀の日本の近代化に合わせて誕生した「文学」にどんな類似…

佐々木敦『ニッポンの思想』

ニッポンの思想 (講談社現代新書) 佐々木敦 講談社 ・なぜ「東浩紀」はひとり勝ちしているのか? 「社会」のなかでの「思想」の地位は、ほとんど目に見える形で凋落してゆきます。(たとえば「出版不況という形で)。このネガティヴ・スパイラルを何とかしな…

池上彰、佐藤優『新・戦争論』

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書) 池上 彰 佐藤 優 文藝春秋 佐藤 いまの日本は、ある意味で、民主主義が進みすぎて息が詰まりそうになっているように思います。 民主主義は独裁と矛盾しません。一〇〇人の議員が九九人に減っても問題…

綾屋紗月、熊谷晋一郎『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』

つながりの作法―同じでもなく 違うでもなく (生活人新書 335) 綾屋 紗月 熊谷 晋一郎 日本放送出版協会 ・当事者研究の可能性 向谷地が整理した当事者研究の具体的な手順 ①〈問題〉と人との切り離し作業を行うことで、「〈問題を抱える自分〉を離れた場所か…

石原考二編『当事者研究の研究』

当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく) 綾屋紗月 河野哲也 向谷地生良 Necco当事者研究会 石原孝二 池田喬 熊谷晋一郎 医学書院 ・第二章 河野哲也「当事者研究の優位性 発達と教育のための知のあり方」 事例研究は、一つの事例を線形的な過程に分解す…

『歎異抄』

歎異抄 (文庫判) 本願寺出版社 ・後序 本当にわたしどもは、如来のご恩がどれほど尊いかを問うこともなく、いつもお互いに善いとか悪いとか、そればかりをいいあっております。親鸞聖人は、「何が善であり何が悪であるのか、そのどちらもわたしはまったく知…

牧野篤『主体は形成されたかー教育学の枠組みをめぐってー』

主体は形成されたか―教育学の枠組みをめぐって 牧野 篤 大学教育出版 ・知の権威主義 近代市民社会は、この超越的支配者を排して、万人の平等性を想定する「平等性」原則の上に定立する社会であり、それは一見、あらゆる差別を解消したかのように見える。し…

村上隆『芸術起業論』

・芸術には開国が必要である 天才が空白状態の中で作るものは歴史をガラリと変える可能性があるのですけれども、水準が高すぎたり時代の先に行きすぎたりしているために、リアルタイムでは正当な評価を受けられないかもしれないのです。 様々なしかけを組み…

村上隆『芸術闘争論』

芸術闘争論 村上 隆 幻冬舎 ・今日のアートー情況と歴史 いってみれば戦後の日本は、首輪をつけられないで育てられてしまった犬のようなものです。「自由」という名の野良犬が我々です。だから、社会という首輪をはめられてしまったらつらくて仕方がない。日…

R・ヴェンチューリ『建築の多様性と対立性』

彼らの作品に見られる多様性と対立性は見過ごされることが多いようである。例えばアアルトを評して、人は、彼の自然の素材に対する感覚や細かなディテールを称賛するものの、建物全体の構成は絵画風であることを狙ったものであると見なすのが通例である。 p.…

アルヴァーアアルト『エッセイとスケッチ』

アルヴァー・アールト エッセイとスケッチ 鹿島出版会 人間にとって必要な生物学的条件は、空気、光、太陽等である。(中略)光と太陽。極限状態にあっては、住宅への日当りを成行きまかせにすることは、もはやできないであろう。住むことの基本条件として、…

武藤章『アルヴァ・アアルト』

アルヴァ・アアルト (SD選書 34) 武藤 章 鹿島出版会 彼は図書館における最大の問題は光の問題だと考えたのである。読書に没頭するためには完全に外界と壁でさえぎられた環境が必要であり、それに対していかに均等な光を供給するか。彼はその問題に悩みなが…

ヨーラン・シルツ『白い机ー円熟期』

白い机 円熟期―アルヴァ・アアルトの栄光と憂うつ ヨーラン シルツ 鹿島出版会 彼にとってAかBかの二者択一はありえず、AもBもという両立あるのみだった。AとBを結び合わせよう、それらのあいだに調和のとれたバランスを見いだそうと、いつも努めていた。 p…

隈研吾『新・建築入門ー思想と歴史』

新・建築入門 ――思想と歴史 ちくま新書 筑摩書房 (2014-02-28) イスラム建築が残した最も印象的な多柱空間は、八世紀に建設されたコルドバの大モスクである。濃淡二色の石をゼブラ上に交互に積み上げて作られた背の低い柱。その石柱が無数に増殖することで…

内田樹、釈徹宗『はじめたばかりの浄土真宗』

はじめたばかりの浄土真宗 (角川ソフィア文庫) 内田 樹 釈 徹宗 角川学芸出版 (2012-05-25) 謙虚なたしなみの宗教性は、常態時において最も多くの人々が共有できることは間違いないと思います。 しかし、一本の道筋をたどり、態度を明確にし、エートスを形…

濱口桂一郎「超高齢社会の社会政策年齢に基づく雇用システムと高齢者雇用」高齢社会のリ・デザイン講義ノート

・日本社会における年齢に基づく賃金体系 年齢と扶養家族数で賃金を決める企業。日本の労働組合だけがそのようなことを言っており、戦後日本の賃金体系の原点である。そこでは同一労働同一賃金という考え方がない。年功序列制のもとではそのような賃金体系は…

隈研吾『建築的欲望の終焉』

建築的欲望の終焉 隈 研吾 新曜社 ・「住宅私有本位制」資本主義の崩壊 1920年代のヨーロッパが、公共住宅においてこのように輝かしい実績を積み重ねたのに大使、アメリカの施策は対照的であった。住宅不足が問題であったという点において、アメリカもヨー…

隈研吾『建築の危機を超えて』

建築の危機を超えて 隈 研吾 TOTO出版 ・建築の危機を超えて 危機は二種類のタイプの人間を生むというのが僕の直感であった。その二種類がマクベスとハムレットであった。危機に際して根拠不確かな魔女の預言を盲信して、行動に対するなんの疑いも逡巡もな…

内田樹『内田樹による内田樹』

内田樹による内田樹 内田樹 140B 2013-09-06 「どうしていいかわからないときに、どうしていいかわかる」能力は「あらかじめ決められた正しいこと」を忠実に繰り返す能力とは違うものです。「荒天」用の能力と「晴天」用の能力と言ってもいいし、「乱世の能…

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』

重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫) シモーヌ ヴェイユ 筑摩書房 1995-12 奴隷の状況とは、永遠からさしこむ光もなく、詩もなく、宗教もない労働である。 永遠よりの光によって、生きる理由だとか働く理由だとかいったものでなく…

河合隼雄『影の現象学』

影の現象学 (講談社学術文庫) 河合 隼雄 講談社 1987-12-10 ・地獄 近代になると、第三番目の因果論はだんだんと強さを増すと同時に仏教的な倫理的因果論としてよりも、自然科学的因果論として急成長を遂げ、第一の命題である死後の生命の存在を否定すると共…

「キリシタン神話の変容過程について」(早天祈祷会原稿)

今日は河合隼雄の「キリシタン神話の変容過程」というエッセイについて。キリスト教は16世紀に日本に渡ってきて、日本人はそれを取り入れて、日本人也に受け止めていくのですが、すごい弾圧にあったために250年間のあいだ西洋人の宣教師なしでそれを持ち…

「作家性と批評性について」(早天祈祷会原稿)

今日は自分が建築を設計するうえで考えることの多かった作家性と批評性についての話をしたい。絵画でも音楽でも文学でも映画でも作家つまり創造する人の他に、多くの場合において批評する人が専門家として存在する。現代だとネット上で作品について「批評」…