臨床心理

C.G.ユング『ヨブへの答え』

ヨブへの答え C.G. ユング みすず書房 善とは悪がうまいこと隠されているということであり、悪とは無意識的に行為するということである。107頁 ***

熊代 亨『ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く』

ロスジェネ心理学―生きづらいこの時代をひも解く 熊代 亨 花伝社 ・全能感を維持するために「なにもしない」人達 ここ最近、「価値のあるボク」「価値のあるアタシ」といった肥大した自己イメージを、いつまでたっても抱えている男女がそこらじゅうに溢れて…

河合隼雄『河合隼雄著作集9 多層化するライフサイクル』

アヌゼルムスは、なぜこんなに不器用なのだろう。彼は無能力ではない。彼は成績は優秀だし、将来は枢密秘書官か、あるいは宮中顧問官にさえなれるのではないかと期待されているほどだ。(...)このように「夢」を実現する能力をもっていながら、それを潰してし…

河合俊雄、内田由紀子編『「ひきこもり」考』

「ひきこもり」考 (こころの未来選書) 河合 俊雄,内田 由紀子 創元社 2013-03 ・北山忍「自己矛盾のメンタリティー」 日本の文化は、古来農耕を基盤にして発展してきたが、これに儒教・仏教といった基本的に人間関係を重んじる思想が加わって成り立ってきて…

斎藤環『生き延びるためのラカン』

生き延びるためのラカン (木星叢書) 斎藤 環 バジリコ ・なぜ「ラカン」なのか? 僕たちはふだん、意味とイメージの世界を生きている。これをラカンは「想像界」と呼ぶ。ところが、意味を生み出すはずの「言葉」は、じつは言葉だけで独自の世界を作っている…

河合隼雄『イメージの心理学』

イメージの心理学 河合 隼雄 青土社 1991-11 ・イメージと深層心理学 ユングはフロイトによる精神分析よりも、もっとイメージのもつ生命力の方に注目し、その心理学において、イメージのもつ特性をできるかぎり残そうとした、と言うことができる。彼はイメ…

河合隼雄『未来への記憶ー自伝の試みー(上)(下)』

未来への記憶―自伝の試み〈上〉 (岩波新書) 河合 隼雄 岩波書店 クロッパーは患者のロールシャッハだけをみて、本人には会っていなくても、この人は医者が言うよりも長生きするだろうとか、この人は医者が言うよりも早く死ぬだろうと分類するんです。それが…

青木省三『ぼくらの中の発達障害』

ぼくらの中の発達障害 (ちくまプリマー新書) 青木 省三 筑摩書房 人に伝えたい「何か」について考える時、コミュニケーション能力が高いことは必ずしも良いとかりは言えない。コミュニケーション能力が高いと、他人と共有する認識や理解を持つことは可能にな…

斉藤環『ヤンキー化する日本』

ヤンキー化する日本 (角川oneテーマ21) 斎藤 環 角川書店 ・与那覇潤 補助輪付きだった戦後民主主義 与那覇 東京女子医大で遺伝学をやっていらした鎌谷直之先生が、日本人は統計学と遺伝学が苦手で、純粋数学は得意なんだということを言っていて、その中で…

河合俊雄『村上春樹の「物語」 夢テキストとして読み解く』

村上春樹の「物語」―夢テキストとして読み解く 河合 俊雄 新潮社 ・はじめにー物語と心理学 村上春樹の作品を心理学的に「解釈」しようとすると多くの問題が起こってきて、それはほとんど不可能なことに思えてくる。それはまず、村上春樹の作品において、「…

村上春樹「魂のいちばん深いところ 河合隼雄先生の思い出」

考える人 2013年 08月号 [雑誌] 新潮社 (2013-07-04) 初対面の印象は「ずいぶん無口で暗い感じの人だな」というものでした。目が据わっているというか、なんとなくどろんとしているんです。奥が見えない。これは、言い方はちょっと悪いかもしれませんが、尋…

最相葉月『セラピスト』

セラピスト 最相 葉月 新潮社 ・第一章 少年と箱庭 河合がとくに慎重になったのは、ユングの「象徴理論」についてである。箱庭を作り続けていると、ある程度似通った図柄が現れる。たとえばマンダラ表現がその一つで、自分の中の相反する感情を統合した自己…

中井久夫『世に棲む患者』

世に棲む患者 中井久夫コレクション 1巻 (全4巻) (ちくま学芸文庫) 中井 久夫 筑摩書房 2011-03-09 一般に「基地」を出て戻れないほど遠くに行かないほうが望ましい。たとえば、住み込み、寮なども、それが「基地」となりうるか否かを吟味せずに「とび込…

小此木啓吾『自己愛人間』

自己愛人間 (ちくま学芸文庫) 小此木 啓吾 筑摩書房 1992-09 ・プロローグ とりわけ現代社会は、私がモラトリアム人間社会とよぶように、自己中心志向が非常に肥大した社会です。お互いが共有する理想像(自我理想)によって、個々人の自己愛を社会化・歴史化…

綾屋紗月、熊谷晋一郎『つながりの作法 同じでもなく違うでもなく』

つながりの作法―同じでもなく 違うでもなく (生活人新書 335) 綾屋 紗月 熊谷 晋一郎 日本放送出版協会 ・当事者研究の可能性 向谷地が整理した当事者研究の具体的な手順 ①〈問題〉と人との切り離し作業を行うことで、「〈問題を抱える自分〉を離れた場所か…

石原考二編『当事者研究の研究』

当事者研究の研究 (シリーズ ケアをひらく) 綾屋紗月 河野哲也 向谷地生良 Necco当事者研究会 石原孝二 池田喬 熊谷晋一郎 医学書院 ・第二章 河野哲也「当事者研究の優位性 発達と教育のための知のあり方」 事例研究は、一つの事例を線形的な過程に分解す…

河合隼雄『影の現象学』

影の現象学 (講談社学術文庫) 河合 隼雄 講談社 1987-12-10 ・地獄 近代になると、第三番目の因果論はだんだんと強さを増すと同時に仏教的な倫理的因果論としてよりも、自然科学的因果論として急成長を遂げ、第一の命題である死後の生命の存在を否定すると共…

河合隼雄『こころの最終講義』

こころの最終講義 (新潮文庫) 河合 隼雄 新潮社 2013-05-27 ・コンステレーション 日本文化というもの、あるいは、日本の社会というものが、母なるものの元型にすごく大きい影響を受けて動いている社会なんだなということを思いました。(中略)それが「母性…

河合隼雄、中沢新一編『「あいまい」の知』

中沢 宗教って何だろうなって考えると、この社会の表舞台に入れない、あるいは引いてしまった人たちがつくるものですが、そうやって入り込んだ自分たちの世界を、別の明確な目的をもった世界へと整地するのですね。別のロゴスの世界をつくるわけです。そうい…

河合隼雄『ケルトを巡る旅 神話と伝説の地』2010

イギリス、ブリストル大学ハットン教授とのドルイド(ケルト社会における祭司)に関する対話(pp.144-147) 河合「現代では、科学と技術が圧倒的になりました。ナバホを訪れた際、特に若い世代が外からの影響を受け、伝統からまったく切り離されているのを見て残…

河合隼雄『昔話の深層』

怠け者が成功するのみならず、そこにずるい知恵まで加わるとなると、われわれ日本人にすぐ思い浮かぶのは「三年寝太郎」の話であろう。これにはいろいろなバリエーションがあるが、山梨県西八代郡で採集されたものをとりあげてみよう。昔あるところに二軒の…

デビッド・J・バーンズ『いやな気分よさようなら 新しい認知療法の紹介』

第三章 自分の感情を理解する 人間の認知の歪み 1.全か無か思考:白黒のみで考える 2.一般化のしすぎ:一つのよくないできごとを世の中すべてと考える 3.心のフィルター:一つのよくないことにこだわって、そればかり考える 4.マイナス化思考:いい出来事を…

向谷地生良、辻信一『ゆるゆるスローなべてるの家』

彼らがさまざまな問題や、いろんな弱さを抱えていることに対して、専門家が働きかけをして彼らが立ちあがるのではなく、むしろ逆に、彼ら自身がもっているものによって社会が生かされ癒されていくという、そっちのほうが正しいのではないかと私は思ったんで…

西野博之『居場所のちから 生きてるだけですごいんだ』

あの当時、登校拒否といわれた学校に行かない(行けない)子どもとその親に対する世間の目は、きわめて厳しかった。ズル(怠け)、甘え、逃げといった考え方が主流だった。精神的に弱い子どもたち、厳しい訓練に寄ってなんとか根性を鍛え直さなければいけないと…

岡田尊司『発達障害と呼ばないで』

定型発達の子供は、常に多数派に属することができるし、社会は多数派の人の在り方を基準に作られているので何かと有利で、生きるのも楽である。しかし、非定型発達の子どもは不利を抱えながら、その不利をどうにか乗り越えようとする中で、想像を超えた能力…

河合隼雄『ナバホへの旅 たましいの風景』

ジェームズさん(ナバホのメディスンマン)は祈りや儀式のたびに、変性意識状態になるわけだから、儀式の後でひどく疲れるようなことはないかと質問してみる。ジェームズさんは、「確かに疲れるけれど、自分が癒しているのではないので、それほどは疲れない」…

河合隼雄、中沢新一『ブッダの夢』

河合 道草こそ、道をいちばんよく知るという立場なんです。道草をくっていない人は道のことなんか思っていないですよ。目的だけを思っているんです。道草する人は、道草を楽しんだり苦しんだりしているわけですから。 中沢 僕は河合先生を見ていてもそう思う…

M.L.フォンフランツ『永遠の少年』再読

なんの仕事であれ、労働はその分野を耕すことで、永遠の少年の心の亀裂や苦しみをいやす薬となる。『どんな仕事をするかは問題ではない。大切なのは一度でいいからなににせよとことん最後までやってみることだ。』永遠の少年が自分に『一番あった』仕事さえ…

河合隼雄『こころの読書教室』

人間ていうのは、ほんとうに大事なことがわかるときは、絶対に大事なものを失わないと獲得できないのではないかなと僕は思います。 私はできるだけ多くの人に本を読んでもらいたいと思っている。それも、知識のつまみ食いのようではなく、一冊の本を端から端…

木村敏『人と人との間』

人と人との間―精神病理学的日本論 (弘文堂選書) 木村 敏 弘文堂 突発的な激変の可能性を含んだ予測不能な対人関係においては、日本人が自然に対して示すのと同じように、自分を相手との関係の中へ投げ入れ、そこで相手の気の動きを肌で感じとって、それに対…