青木省三『ぼくらの中の発達障害』

人に伝えたい「何か」について考える時、コミュニケーション能力が高いことは必ずしも良いとかりは言えない。コミュニケーション能力が高いと、他人と共有する認識や理解を持つことは可能になる。だが、深刻に悩み困っていることや考えあぐねていることは、容易に他人に分かってもらえるものではなく、実は共有することが難しいものである。 うまく伝わらない、伝えられないと苦しみ、苦しみ抜いた時こそ、本質的な「何か」が生まれる可能性がある。逆説的だが、言葉でのコミュニケーションが困難な時、他人に伝えたい、本質的な「何か」が生まれてくる。p.92 広い領域で平均的な力を発揮する能力と、ある限定された領域で深く切り込んでいく能力とは異なるものである。広汎性発達障害の傾向を持つ人は、限られた情報をもとに、狭く深く考え抜く人が多い。現実から同時に複数の情報が入ってくる時には混乱するが、ごく狭いところでは微妙で繊細な差異を見分ける力を発揮するのである。目利きとして稀有な才能を生かしていることもある。又、創造的な活動へと発展していくこともある。この狭く深い能力をいかに活かしていくか、これも、今問われていることの一つだと思う。p.106 ***