木村敏『人と人との間』

突発的な激変の可能性を含んだ予測不能な対人関係においては、日本人が自然に対して示すのと同じように、自分を相手との関係の中へ投げ入れ、そこで相手の気の動きを肌で感じとって、それに対して臨機応変の出方をしなくてはならない。自分を相手にあずける、相手次第で自分の出方を変えるというのが、最も理にかなった行動様式となる。このようにして、日本人の人と人との間は或る意味では無限に近い、密着したものとなる。そこには厳密な意味での「自己」と「他人」はもはや成立しない。自己が自己でありつづけるためには、自己は相手の中へ自己を捨てねばならぬ。そして、相手の中に自己をもう一度見出して、それを自分の方へ取り戻さなくてはならぬ。 p.124 ***