樋口忠彦『郊外の風景』

風景は、単に目の前に見える世界ではない。目の前に見える世界を、風景として意識して見ることで、風景ははじめて見えてくる。風景として意識してみないことには、目の前に見える世界は風景にはならない。風景は、目の前の物的な世界が前提ではあるが、基本的には人の意識の中、心の中に生じるものである。 人の意識の中、心の中にあるものであるから、何らかの形で表現されないことには、 風景は人の意識や心にとどまったままか、いつのまにか消え去ってしまう。風景は、何らかの形で表現されて、はじめて人と人の間で共有されるものになる。 p.189 ***