中根千枝『タテ社会の人間関係』

日本においては、どんなに一定の主義・思想を錦の御旗としている集団でも、その集団の生命は「その主義自体に個人が忠実である」ことではなく、むしろお互いの人間関係自体にあるといえよう。 ここでも宗教と同様、主義・思想は日本社会にあっては後退を余儀なくされている。堂々と世界に誇りうるような、また、他の社会の人びとに大きな影響を与えるような偉大な宗教家・哲学者が、いまだに日本から一人もでていないという事実は、この日本的社会構造と無関係ではなささそうである。このように考察してくると、日本人の価値観の根底には、絶対を設定する、あるいは論理的探求、といったものが存在しないか、あるいは、あってもきわめて低調で、その代わりに直接的、感情的人間関係を前提とする相対性原理が強く存在しているといえよう。pp.172-173 ***