河合隼雄『こころの読書教室』
人間ていうのは、ほんとうに大事なことがわかるときは、絶対に大事なものを失わないと獲得できないのではないかなと僕は思います。
私はできるだけ多くの人に本を読んでもらいたいと思っている。それも、知識のつまみ食いのようではなく、一冊の本を端から端まで読むと、単に何かを「知る」ということ以上の体験ができると思っている。 p.274
解説
ほんとうは、無意識というのは、「ストック」されたものではなく「フロー」しているものなのだ。それが河合さんのいおうとしていることなのだと、私は受けとった。「フロー」しているから、それは、私の内部、奥底にあると同時に、外ともつながっている。 p.280
河合さんがいっているのは、本を「ストック」(知識とか情報とか)を手に入れるために読む人がふえたけれど、読書というのは、ほんらい、本に流れているものーー「フロー」ーーにふれることなんだ、ということである。 p.281
相手の話を聴くとき、意識の水準をさげる、と河合さんはいっている。意識の水準を上げると、頭が働き、自我が活躍するのだが、反対に、これを下げると、意識の明度が曇る代わりにいわば無意識がむずむずと動くようになる。部屋の明かりを低くすると、机の上に昼行灯のように灯っていた蝋燭の灯が浮かびあがる。お互いにボケーっとすると、クライアントの暗がりに灯っている蝋燭と、話を聴く河合さんの内部の暗がりに灯っている蝋燭とだけが闇の中に残り、ほかのことは消えて、二本の蝋燭の炎が同じかすかな風に揺らぐ。共振する。
そこでは、語ることと語らないことは、ともに同じくらい大事なことである。 p.282
まず読んでほしい本
山田太一『遠くの声を捜して』
ドストエフスキー『二重身』
カフカ『変身』
フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』
オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術』
ハンス・ペーター・リヒター『あのころはフリードリヒがいた』
ルーマー・ゴッデン『ねずみ女房』
夏目漱石『それから』
桑原博史『とりかへばや物語全訳注』
E・B・ホワイト『シャーロットのおくりもの』
大江健三郎『人生の親戚』
ルドルフ・オットー『聖なるもの』
もっと読んでみたい人のために
桑原知子『もう一人の私』
フローラ・リータ・シュライバー『シビルー私のなかの一六人』
岩宮恵子『生きにくい子どもたち』
バーネット『秘密の花園』
シャーロット・ゾロトウ『あたらしいぼく』
吉本ばなな『アムリタ』
エリ・ヴィーゼル『夜』
E・L・カニグズバーグ『ジョコンダ夫人の肖像』
エマ・ユング『内なる異性ーアニムスとアニマ』
デイヴィッド・ガーネット『狐になった夫人』
ヘルマン・ヘッセ『荒野の狼』
白州正子『明恵上人』
ノーバート・S・ヒル・ジュニア編『俺の心は大地とひとつだ』
茂木健一郎『脳と仮想』
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