M.L.フォンフランツ『永遠の少年』再読

  

なんの仕事であれ、労働はその分野を耕すことで、永遠の少年の心の亀裂や苦しみをいやす薬となる。『どんな仕事をするかは問題ではない。大切なのは一度でいいからなににせよとことん最後までやってみることだ。』永遠の少年が自分に『一番あった』仕事さえみつかればすぐにでも働くのだが、それがみつからないのだというと、ユングは『すぐ手近にある土地でかまわない。耕してなにかを蒔いてごらん。事務にせよ、教育にせよ、一度身を入れて目の前の耕地を耕してみる事が大切だ。』

永遠の少年が青年時代の陶酔的でロマンチックな『生の躍動』を失ったときこそ、危険な逆流のはじまりであり、そうなると女性や生活、そしてふつうは仕事や金銭に対して完全にシニカルな態度をとるようになる。突然あきらめまじりのシニシズムに襲われる人が多い。今まで抱いてきた理想やロマンチックな情熱、さらにはいっさいの創造性さえも、若さゆえの幻想として葬り去ってしまう。あわれな小心者の世間的な人間に成り下がって、今度は家庭やお金や出世にあくせくするようになる。それ以外のものはいっさいロマンチックなナンセンスとみなされる。若いときに求めた意見してきたものはすべて破棄されねばならないのだ。この種の人々は現実の困難に耐えれば道が開けることがわからず、自分の理想を犠牲にする前に、まず現実という試金石にそれらを照らしてみようとしない弱い意識の持主である。彼らは安易な道を選び、理想など現実を複雑にするばかりだとして捨て去ろうとする。ここに大きな危険があるのだ。

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