建築意匠講義 香山壽夫

肘掛け椅子の懐疑論 今日の芸術の多くは肘掛け椅子に座している人間の安楽と倦怠の中から生まれてくる。 人が生きるということは存在に対する信頼の上で行動している。つくる人は、ものの存在に対する信頼の上で行動する。ものをつくるということは、ものとものとを関係づけている秩序に対する信頼なくして行うことはできない。左官職人は疑いを振り払い、壁としっくいと、そして自分を信じて手を動かす。それこそ私が「作業現場の実在論」と呼んでいるもの。 ***