あなたが"self-efficacy"を感じるとき

  

2016年7月17日

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 「ある状況において必要な行動をうまく遂行できるという個人的な確信」をself-efficacy(自己効力感)と呼ぶのであれば、非常に精神的なもので気持ちの持ちよう次第でいつでも、どんな人でも持ちうるものであるかのように聞こえるが、個人的な経験からすれば、そのような感覚は一朝一夕で持ちうるものではなく、より身体的なもので生活や経験に根ざしたものであるように思われる。self-efficacyは感覚として身体のうちに自ずから生じてくるものであって、身体が行動を拒否しているにも関わらず自己啓発的な手法によって恒常的に持ちえるものではない。

 バンデューラ自身もself-efficacyを高める方法として、成功体験、代理体験、言語的説得、生理的状態の4つを挙げていたが、やはり基本にあるのは成功体験であろう。いくら自分を勇気づけて不得意な分野での努力を続けたとしても、長期間にわたって成功に結びつかなければほとんどの人がやる気を失ってしまうし、その問題は気持ちの持ちよう次第で解消できるようなものであるとは思えない。それに対して自分が得意なことは成果も現れやすく、努力すること自体もあまり苦にならず良い循環が生まれやすい。自分が得意かつ好きな領域をどこかに見出し、そこで成果を上げていくことが理想的だといえる。

 self-efficacyを高める方法として成功体験の次に私が重要だと感じるものは生理的状態である。先にもself-efficacyは身体感覚だと述べたが、このような自信や前向きな考えというものは、想像以上に身体的なものと結びついているように思われる。毎日規則正しい生活を心がけ、バランスのとれた食生活を送り、定期的な運動を行っていると、自然と考えが前向きになり、何事にも挑戦しようという意欲が湧いてくる。それに対し、昼夜が逆転したような生活を送り、不健康な食生活、あるいは酒やタバコを摂取していると必ずといっていいほど思考もネガティブとなり、研究の効率も悪く、成果もあがらず悪循環に繋がっていく。

 脳科学の研究によると人間の脳において前頭葉は感情、言語、運動を司る脳の司令塔のような役割を果たしており、自制心を持ったり、主体性をもって計画的に物事を進めたり、対人間のコミュニケーションを円滑にするうえでもとりわけ重要になってくるという。意欲やモチベーションを司っているという意味においてもself-efficacyと前頭葉の働きは大きく関係しているように思われるが、興味深いことに前頭葉の機能は規則正しい生活、家事などの雑務、ランニング等の有酸素運動などによって活性化されやすいという。「自分が行為の主体であると確信していること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応できるという確信」がself-efficacyの具体的内容であるとすれば、それは前頭葉がきちんと機能していることによってもたらされる内容と極めて近く、前頭葉を活性化させることがself-efficacyを感じることに繋がるといっても過言ではないように思われる。その意味においても、自分が生活を整え、定期的な運動を行っている際にself-efficacyを感じるのはある種必然ともいえ、そのような些細にもみえる生活の細部と深いところで結びついているように感じるのである。