内田樹 修業論

・道場とは楽屋のような場所。実験が許される、失敗が許される、試行錯誤が許される、自分の柔らかい部分をさらすことが許される。もし、道場で門人たちが、相対的な優劣や強弱を競うことをいつも気にかけていたら、そこでは「棘心」を開くことはできないだろう。というのは相対的な優劣を競う場合には、自分の努力を高める能力と、競争相手の能力を引き下げる努力は同じ結果をもたらすからである。 ・「弱い武道家」であるという点においてはまず人後に落ちない。どこが弱いかというと「厭なことに我慢できない」という点で、超人的に弱い。あまりに弱いので「厭なこと」が起きるよりかなり前からその気配を察知して、「厭なこと」と鉢合わせしないようにあれこれ工夫するようになってきた。(...)合気道の師から「昔の侍は用がないときには外にでかけたりしなかったものだ」ということをお聞きして、よほどの用事がない限り、ほとんど家から出ないようになりました。 ***