内田樹 こんな日本でよかったね

・コミュニケーション感度の向上を妨げる要員は「こだわり・プライド・被害妄想」(@春日武彦)であるので「こだわらない・よく笑う・いじけない」という構えを私は高く評価する。危機的状況であればあるほど、「他者からの支援」をとりつける能力の有無が生き延びる可能性に深く関与するということである。他者からの支援をとりつけるための最良のアプローチは何か。たぶん、ほとんどのひとは驚かれるだろうけど、それは「ディセンシー」である。「強い個体」とは「礼儀正しい個体」である。 ・繰り返し申し上げるが、自分の手で未来を切り開けるということはない。どれほど才能があって、どれほど努力しても、それがまったく結実しないと嘆く人間がいる一方で、まるで才能もなく、ろくに努力もしていないけれど、どうも「いいこと続き」で困ったもんだとげらげら笑っている人間もいる。その差は、自分の将来の「こうなったらいいな状態」について「どれだけ多くの可能性」を列挙できたか、その数に比例する。当然ながら一〇〇種類の願望を抱いていた人間は、一種類の願望しか抱いていない人間よりも、「願望達成比率」が一〇〇倍高い。おおかたの人は誤解しているが、願望達成の可能性は、本質的なところでは努力とも才能とも幸運とも関係がなく、未来の可能性についての開放度の関数なのである。 ・「リセット」の誘惑に日本人は抵抗力がない。「すべてチャラにして、一からやり直そうよ」と言われると、どんなことでも、思わず「うん」と頷いてしまうのが日本人の骨がらみの癖なのである。 *** ・自分でああしよう、こうしようと思ったら絶対ダメ。来たものになんとなく答えていく、「時が経っていった」という感じの方がうまくいく。先に考えるのではなくて、それに身を任すこと。  ・「なるに決まっている」という思い込みを長い間、しかも強くもっていないと実現にはいたらない と「なるほどの対話」の中にもあったけれど、こういうふうになりたい、と考えてそれに向けて一直線に努力して道を切り開くというものではないらしい。こういうふうにならなきゃって自分であらかじめ決めてしまうのではなくて、未来の可能性に対して開かれた姿勢をもつこと。