内田樹『街場の共同体論』

 

 階層上位の人たちって、僕もたまに個人的に知り合う機会がありますけど、立場を超えて、だいたい基本的に「いい人」なんですよ。自己主張が控えめで、礼儀正しくて、穏やかで、ユーモアのセンスがあって。

 当たり前ですよね。自分の帰属する共同体の中で、まわりの人たちに気を遣いながら、なるべく嫌われないようにやってきて、今日の地位を得たわけでえすから。まわりを蹴落として、上司におもねって、出世の階段を必死に這い上がってきた「成り上がり」とは手触りが違う。重要な仕事をするなら、「こういう人」たちとやりたいな、と思わせるような頼りがいがある。(中略)階層上位者自身は、実は成長も拡大もさして望んでいない。定常的なシステムのままで十分な利益が安定的に確保されているんです。ですから階層上位者たちは、階層下位者たちが「成長だ、競争だ、奪い合いだ、走るのを止めたら、食われるぞ」というイデオロギーを頭から信じて、お互いに「食い合う」のを黙って見ている。ダブルスタンダードを黙認している。 p.234

 階層社会の力学って、かなり複雑なんです。どういつふうに語っても、階層構造が強化されるように作り込まれている。実によくできているんです。階層を「這い上がろう」とするふるまいそのものが、階層上位への参入を阻止されてしまうように作られている。 p.237

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