山田昌弘『なぜ若者は保守化するのか』

本来、潜在能力のある若者はリスクを取って、さまざまな機会を試し自分に合った職を見つけ出すほうが、その能力を発揮するためには望ましいだろう。現実は逆で、優秀な若者が安定した大企業正社員や公務員になり、安定した職場でこつこつと能力をつけたほうが望ましい高卒者、高校中退者などが、リスクを取らされ非正規の労働市場に追いやられる。これが若者に閉塞感をもたらし、日本経済がなかなか活性化しない原因なのではないかと思う。 p.42 *** 先日学部生と飲んだときも再認識したけれど、若者の保守への傾倒はリーマンショック以降、年々着実に加速度的に進行しているように見える。周囲から見たら現実離れしていそうな人でも実際に話してみると予想以上に冷静で将来について現実的に地に足つけて考えていたりする。変に夢を語ったりしないし、経験的に達成可能そうな目標をたてて、モラトリアムな期間を可能な限り短く切り上げようとしてる。保守化は年寄りになるにつれ進んでいきそうなものだけれど、周囲ではアラサーの社会人よりも学生のほうがよっぽど保守的になっていて、身分が安定しないこととか、お金がないことにたいする危機感が強く、可能な限り早くその不安から逃れたいという意識が強い。将来に対して判断を留保して今を楽しもうなんて考えの人はあまり見ないし、多くの人が不安回避の手段を一生懸命考えている。 普段は地に足着かずに夢想ばかりしていそうな人たちですらそういう傾向で、浮遊していられる部分と地に足つけなきゃいけない部分を現実的に判断してる。昨日まではあれこれ将来の可能性についてだけ語っていたけど、今日はもういかに食べていくかの話だけに終始していてその変身の巧みさには驚かされる。 実績や経歴やはったり(?)に対する学生の強い関心も、他者評価が芳しくないというリスクに対して危機管理しなければならないという意識のあらわれなんだろう。役に立つかどうかわからない「教養」を身につけることや、自分の可能性を信じるということよりも、現実的に自分が他者からどう見えているかということに強い関心があって、現状でそのことで不利益を被る可能性が高いと判断するならばその不利益を回避するためにどう行動すべきかということを真剣に考えている。 この保守への傾倒はいつまでつづくのだろうか。せめて学生の間くらいは実益や経済の価値観から離れて勉強したいと考えてしまうけれど、今ではそういう考えも少数派なんだろう。