ベンヤミン 複製技術時代の芸術

最古の芸術作品が発生したのは、周知のとおり、最初は魔法の儀式に、つぎには宗教的儀式にそれを供するためであった。さて、芸術作品はこのアウラ的性格がどうしても儀式の道具という機能から徹底的に解放されえない事実には、きわめて重大な意味がある。ことばを換えていえば、「ほんもの」の芸術作品が比類の無い価値をもつ根拠は、ほかならぬ儀式性にあり、芸術作品の本源的な第一の利用価値もそこにあった。 pp.18 芸術作品に接するばあい、いろいろなアクセントのおきかたがあるが、そのなかでふたつの対極がきわだっている。ひとつは、重点を芸術作品の礼拝的価値におく態度であり、もうひとつは重点を作品の展示的価値におく態度である。 pp.19 芸術作品のまえで精神を集中するばあい、ひとはその作品のなかに沈潜する。自分の完成した絵を眺める中国のふるい絵かきの伝説にいわれているように、眺めているもの自身がその作品のなかにはいりこんでいくようである。これにたいして散漫な大衆のほうは、逆に自己の内部へ芸術作品を沈潜させる。このばあい、もっとも明快な実例は建築物であろう。建築は、古来、つねに人間の集団が散漫に接してきた芸術の典型であった。 pp.42
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